ウェブ業界で起業したいならMarcoを目指そう

Marco Armentという人をご存知だろうか?

Instapaperという「ブックマークして後で読む」アプリの作者として知られており、アメリカで大人気のブログサービスtumblrの共同創業者でもある。彼は2010年にtumblrを離れ、今はInstapaper一本にしぼって仕事をしている。主な収入源は$4.99のiOS用Instapaperアプリで[1]、アプリのダウンロード数が常時ランクインしていることを考えると、十分生活できるだけの額だろう。

今日のお話は至極単純なもので、ウェブ業界で起業したい人たちは、Mark ZuckerbergでもSteve JobsでもなくてMarco Armentをお手本にするべきだという話だ。ここですでに納得なら、残りを読む必要はない。

ぼくがMarcoをお手本とするべきだというには、3つの理由がある。

  1. Marcoがウェブプロダクト制作に関して平均的に能力があること
  2. Marcoが(いい意味で)エリートではないこと
  3. Marcoが冷静で、現実的であること

ウェブプロダクト制作に関して平均的に能力がある

Marcoは1人でInstapaperを運用している[2]。マーケティング・デザイン・プログラミング・サーバー管理の全てを1人でやるというのは、相当大変だ。もちろんどれをとってもMarcoよりも優れている人はたくさんいる。ただ、Marcoのレベルで全て1人でできる人はほとんどいない。RPGでいえばMarcoは万能キャラだ。ナイトほどパワーはないが一応剣も使える。狩人ほど器用ではないが弓も装備できる。1番低レベルかもしれないが回復魔法も攻撃魔法も使えるというわけだ。

Marcoのような万能キャラは、起業にうってつけである。というのも、万能キャラは誰にも大きく依存せずにプロトタイプが作り、宣伝できるからだ。例をあげて説明しよう。例えば、あなたがデザイナーだったとして、「ああこういうウェブアプリがあったらいいな」と思いつく。でも、そのアイデアをプロダクトにするには、サーバーを借りて、DNSを設定し、データベースをコンパイルして、キャッシュサーバーを設置して、アプリケーションコードを書いて…と延々と技術的なハードルに出くわすことになる。もちろん誰かを雇うことは可能だが、その時点でこのプロジェクトは高くつくことになってしまう。

逆に、あなたがエンジニアだったとしよう。すると今度はプロダクトデザインで壁にぶちあたることになる。いろいろと違うインターフェースをデザインしてみるが、どうもしっくりこない。インターフェースがお粗末ではユーザーが集まらないので、デザイナーに頼んでモックアップをつくってもらうことになり、前の例と同じように人件費がかかってしまう。もしプログラムの知識もデザインの素養もなければ、さらに高くつくというのは、明らかだ。

仮にコードが書けてそれなりのプロダクトをデザインできても、まだまだ終わりではない。できたプロダクトを宣伝しなくては、誰にも使ってもらえない。いわゆるマーケティングをすることになるが、これがそうカンタンではない。エンジニアやデザイナーの中で、マーケティングを下に見る人をちらちら見るが、マーケティングなしではプロダクトを売ることはできない。顧客サポートやコピーライティングは、デザインやプログラミングと同じくらい、プロダクトの運命を握っている。

すでにおわかりかもしれないが、起業するうえでMarcoが圧倒的に有利なのは、上記のすべてが1人でできるので、初期段階でコストを大幅に抑えられ、さらに自分で全てコントロールできるということだ。デザイナーをせっつく必要もなければ、外注したプログラマーの遅々とした作業にやきもきすることもなく、広告業者にいちいちプロダクトを説明する必要もない。自分でデザインを決め、それをコードに落とし込み、宣伝用のブログ記事も自分で書く。Marco Armentはウェブの世界での究極のなんでも屋さんで、そんな彼がtumblrで働くかたわら始めたのがInstapaperだ。

そんなすごいやつを目指しても無駄じゃないかと思うかもしれないが、ここで大事なのは、Marcoはどれをとっても100点満点ではない[2]代わり、弱点がないということだ。プログラミングもデザインも宣伝も全てエキスパートになろうとすると途方にくれてしまうが、どれもそれ相応にできるようになるのは、難しいが不可能ではない。起業をするのに、なにかひとつの分野において突出している必要はない。もし興した会社が成功し拡大していくなら、その時点でエキスパートたちを雇えばいいのだ。弱点を持たないことは、ウェブ業界での起業のハードルをぐっと下げてくれるとぼくは見ている。

(いい意味で)エリートではない

スタートアップのメッカといえばシリコンバレーだが、ここで成功している人たちの大半は参考にならない。というのも、彼らの多くは、一般の人々には到底手の届かないエリートだからだ。例えばQuoraという会社の社員紹介を見てみよう。社員のほとんどがMIT/Harvard/Stanford/CMUといったエリート大学で、そうでない人もFacebookとかGoogleといったエリート企業の出身者だ。悪い言い方をすれば、学歴や職歴による選民主義は、シリコンバレーでも如実にあり、話題になっている会社であればあるほど、その傾向は強い。そんな選ばれし人たちを目標にしても、自分も同等の学歴なり職歴がない限り無意味だ。彼らと自分たちでは開くドアの数が違う。

こんな話をすると、万能キャラMarcoもさぞかしエリートかと思うかもしれないが、全くそんなことはないのである。Ohioの普通の家に生まれた彼は、同じ州の小さなリベラルアーツ大学を卒業している。成績がよかったことはなく、特に大学では落第点の連続で、半年遅れでやっとの思いで卒業している[3]。大学の成績が悪かったこともあいまって、仕事を探すのも大変で、最初の就職先は、友人のコネで面接までこじつけたそうだ。そこを辞めて、tumblrを起業して今に至っているのだが、どうひいき目に見ても、彼はエリートではない。

彼がエリートではないことは、2つの意味で参考になる。1つめはウェブ業界で成功するのにエリートであることは必要不可欠ではないということだ。「大学を落第しそうだったやつでもできるなら、自分だって」というわけだ。もっと重要な点は、エリートではないからこそ見える視点があるということだ。例えば、tumblrがブログという競争の激しいスペースで成功した理由に、「文章を書きたくないけどブログはやりたい」という人口の99%のニーズを満たしたことがあげられる。「文章は面倒くさいけど写真とか引用なら」というのは、きわめて大衆的で非エリートな視点だ。また、ブログでも書いているように、彼は常に成績よりも、何を学んでいるかに重点を置いてきたという。作文の課題を出された時に、無用な文を足して規定のページ数に到達させるよりも、ページ数が足りなくても簡潔でわかりやすい文章を提出したり、時間の無駄だと思った宿題はやらなかったそうだ。そりゃ成績も悪くなるわけだが、先に述べたように、彼がマルチな起業家に成長を遂げたことを考えると、成績という外的要素に捕われず、自分のやり方で学ぶということは、まんざら悪いことではない。

現実的で冷静であること

ブログを読んだり、ポッドキャストを聞いたりすればわかるが、Marcoはとても現実的だ。大ヒットとなったInstapaperにしても、あと2−3年ですたれることは大いに考えられ、その時に備えて新しいアイデアを考えなくてはいけないと日頃から言っている。Tumblrのリードエンジニアを辞めたときも、「大きくなりつつあるTumblrを技術的に指導できる経験値がないから」とあっさり認めている(もちろんInstapaperという次のプロジェクトがあったこともあるだろう)。いずれにせよ、自分に正直に、現実的な判断ができるということは、起業家のように大きなリスクを背負う人たちには不可欠だ。

Marcoの冷静さ、常識人ぶりを顕著に表しているのが、仕事に対する姿勢だ。今週のポッドキャストでも、こう語っている。

ぼくは今まで会社のモーレツ重労働文化に支配されるような状況に自分を置いたことはない。

I’ve never permitted myself to get into a situation where I was being taken over by the culture of workoholism.

彼はシリコンバレーのスタートアップにありがちな「カフェインを最大限投入して毎晩夜中までがんばろうぜ」といった仕事のスタイルに懐疑的で、そういう生活を強いられている人は会社に騙されていると述べている。スタートアップがよく株式と引き換えに給料を安く設定することにも批判的で、どんなに会社が若くても従業員である以上、市場の相場の給料をもらうべきだと主張している。双方ともきわめて常識的な意見なのだが、シリコンバレーのモーレツ文化を間近で見ていると、09:00-17:00で働くことがあたかも怠惰であるように罪悪感を覚えるし、自分が働いている会社もいつかはFacebookのようになる錯覚に陥ってしまう。でも、一度冷静になって考えれば、自分の時間をエンジョイできてこその仕事だし、今働いている会社がFacebookのように成功する確率はまあゼロだ。がんばって働くことも大きな夢を持つことも大事だが、自分を醒めた観点で見つめられる冷静さも忘れてはいけない。


  1. 他にもブログの広告や、ポッドキャストなどもやっている。
  2. 個人的には、彼の一番の強みは文章力と分析力だと思っている。
  3. 彼のブログによれば、大学のGPA(成績)は2.0よりちょっとよいくらいだそうだ。採点が甘いことで問題になっているアメリカでは、これは異様に低い。

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